先日、ある大手企業の社屋にあるエレベーターに乗る機会があったんです。ちょうど、朝の出勤時間帯に重なるタイミングだったので、エレベーターの中は満員状態。

そんな状況の中、ある階でエレベーターが止まった時に、その事件は起こったんです。

ちょっと!アタシもこの階で降りるんですけどっ!

静かだったエレベーターの中に響く攻撃的な物言い。
その瞬間、凍り付く満員状態のエレベーター。
一体何が起こったのか?というと、

その攻撃的な物言いをした女性の後ろに若い女性が立っていたんですが、その女性もその階で降りるということで、前に進もうとした時に、その攻撃的な物言いをした女性を軽く押すような感じになったらしいんです。

まあ、満員のエレベータではよくある光景ですよね。でも、どうもそれが気に入らなかったらしく、冒頭の攻撃な物言いになったようなんです。

まあ、後ろから押されるような感じになって、イラッとする気持ちはわからなくもないんですが、同じ会社に勤める従業員同士、本来なら、お互いに協調・協力し合う存在であるべきだと思うんです。

さすがに組織が大きくなると、同じ会社であっても、他部署の人は赤の他人みたいな感じになってしまう。というのはありがちな話。

ですが、他部署の人を、まるで赤の他人であるかのように捉えてしまう状況は、会社として「成果」を生み出すにあたり、障害となってしまうことがあります。

目に見える「成果」の下にあるもの

会社を存続・運営していくためには「利益」が必要です。お金が無ければ従業員に給料も払えませんからね。

ですから、会社は「利益」を求め、会社に所属する従業員には、利益を生み出すための「成果」が求められます。

しかし、目に見える「成果」を生み出すには、その成果を生み出す元になる能力やスキル、また、成果に繋がる行動やアイデア、マインドセットといったものが必要になります。

例えば営業であれば、営業トークのスキルや、一人でも多くのお客様にアプローチしようとする努力、また、お客様に厳しい事を言われてもへこたれない勇気といったものがあって、初めて「売上」という目に見える成果に繋がります。

スキルもなく、何の行動もせずに「売上」が得られるなんていうことはあり得ませんよね。つまり、目に見える「成果」の下には色々なものがあるわけです。

これを言い表したものが「アイスバーグ理論(氷山理論)」と言われるもので、「成果」は氷山の一角のようなもので、目に見える「成果」の下には能力やスキル、習慣や行動、人生哲学や思想といったものが存在し、それらがあって、「成果」が存在するという考え方です。

アイスバーグ理論の詳細については、専門の書籍などをあたってもらえればと思いますが、要は、成果を得るには、色々なものが必要だという事です。

スキルアップ中心の標的型メール訓練になっていませんか?

アイスバーグ理論の図を見てもらえればわかるように、安定した氷山の下には、目に見える部分を支えるだけの大きな氷山があり、大きな氷山であるためには、縦横共に大きなものであることが必要となります。

深さが無く、横に長いだけの氷山なんてあり得ませんし、また、棒みたいに縦に長いだけの氷山なんてものもあり得ません。色々なものが相互に支え合うからこそ、大きな氷山となり、成果も、まさにそんな氷山と同じというわけです。

どんなにスキルが高くても、それを活かす行動や習慣が無ければスキルは活かせませんし、また、行動しようというマインドセットや、ある習慣を持つことを是と考える思想が無ければ、実際の行動には結び付きません。

例を挙げれば、不審なメールかどうかを見分けるスキルを幾ら教えても、不審なメールかどうかをチェックせずに、届いたメールに添付されているファイルは無条件で開いてしまっていたのでは意味がありませんし、また、不審なメールかどうかをチェックするのは、会社のメールシステムがやるべきことで、自分達が目で見ていちいち不審かどうかを見分けるなんて馬鹿げている。という思想を持っていたら、そもそも不審なメールかどうかを見分けようという気さえおきないかもしれません。

「標的型メールによる被害に遭わない」というのが目に見える「成果」であるなら、アイスバーグ理論に基づけば、その成果を支える下にあるものとして、スキルだけではなく、そのスキルを活かすための習慣やマインドセットといったものも成長させる必要がある。ということです。

標的型メール訓練というと、ともすると、不審なメールを見分けるスキルを磨く訓練や、不審なメールに気づいたことを上長等にエスカレーションできるかどうかを試すような訓練を考えがちですが、従業員各個人が、そのスキルを活かそうという行動を習慣的に行わなければ、どれだけスキルアップを目指したところで意味はありません。

また、そうした行動が習慣的に行われるには、そうした行動を習慣的に行うことが正しい事であり、そうすべきであるという信念が従業員各個人になければ成立し得ません。

そう考えた時に、貴社ではスキルアップだけでなく、身につけたスキルを活かす習慣づけや、そうした習慣を受け入れてもらえるようにする思想教育といったものにまで視野を広げて、訓練の実施を検討されているでしょうか?

想いが共有されていたら攻撃的な物言いは無かったかも

冒頭の、エレベーターの中で攻撃的な物言いをした女性も、「同じ会社に勤める従業員同士は、お互いに協調・協力し合う存在であるべき」という考え方が、会社全体の思想として共有されていたら、そんな物言いにはならなかったかもしれません。

従業員各個人の思想やマインドセットがバラバラで、全員が同じ方向を向いて行動するような状況になっていなければ、得られる成果もバラバラなものとなり、大きな氷山(大きな成果)にはなり得ません。

折角訓練を実施するのですから、どうせやるなら、大きな成果へと結び付けたいものです。 であれば、アイスバーグ理論に基づき、スキルアップだけでなく、日々の習慣づけや、マインドセットにまで踏み込んだ教育を実施することを検討してみてはいかがでしょうか?

そうすれば、訓練実施に非協力的、批判的な従業員も減り、目に見える成果として、会社のリテラシーが向上していくというのを、肌で実感できるようになるのではないかと思います。