現場から寄せられるクレームの是非と、訓練実施の必要性を冷静に考える

「こんな忙しい時に訓練メールなんて送ってくるなよ…」
「業務の邪魔をしないでほしい」

── 標的型攻撃メール訓練を実施した際、現場からこのようなクレームが出た経験を持つ担当者も少なくないはずです。

あなたの会社で標的型攻撃メール訓練を実施することが初めてであるなら、転ばぬ先の杖として、こうしたクレームが寄せられる可能性を考えておく必要があります。

では、本当に繁忙期に訓練を実施することは「間違い」なのでしょうか?
本記事では、クレームの背景にある考え方の妥当性を検討しつつ、繁忙期に訓練を実施する意味や注意点について考察します。


🗣️ クレームの背景にある正当な懸念とは?

繁忙期に訓練を受ける社員の立場に立てば、クレームは必ずしも“わがまま”とは言い切れません。

📌 現場が感じる「業務妨害」としての訓練

  • 訓練メールの確認・対応に業務が中断される
  • フィッシング疑惑で社内が一時的に混乱する
  • 「開封・クリックした」ことで心理的なストレスが生じる

これらの声は、業務効率を守るうえで正当な懸念とも言えます。

実際、訓練メールを本物の攻撃メールと勘違いして業務が止まってしまい、営業活動に多大な支障が生じたりすれば、経営の足を引っ張るような訓練の実施など言語道断!と考える役員や社員がいても不思議ではないでしょう。


🧠 それでも、なぜ繁忙期に訓練を実施する意義があるのか?

それは、攻撃者は企業の繁忙期こそを狙って標的型攻撃を仕掛けてくるからに他なりません。

🎯 攻撃者の“繁忙期狙い”の理由

  • 忙しさゆえにメールの確認が雑になる
  • 「急ぎの連絡」と言われれば思考停止で開いてしまう
  • 疲労や緊張から、違和感に気づけない

つまり、現実の攻撃に最も脆弱になるタイミングとしてうってつけなのが繁忙期であり、攻撃の成功確率を考えれば、このタイミングこそ攻撃メールを送る絶好のタイミングだということです。

ですので、この時期に訓練を行うことは、“本当に狙われる場面で社員がどう行動するか”を観察する絶好の機会でもあります。

実際に訓練を実施された方であれば実感されていることと思いますが、訓練メールに騙されてしまった方にヒアリングを行うと、上記に記載したような理由で”不審だと気づけなかった”という回答が返ってくることが実に多いことがわかります。


⚖️ 繁忙期に訓練を行うことのメリット・デメリット

項目メリットデメリット
実践性現実の攻撃を想定した訓練が可能ストレスを与える可能性
意識づけ業務中の“セキュリティ意識”を高められる十分な振り返りの時間が取れないことも
精度向上忙しい時でも対応できる力を養える現場との信頼関係を損なう可能性

より実戦的な訓練を行うことを考えると、繁忙期に訓練を行うことは理にかなっていることになりますが、訓練から学ぶという側面から考えると、訓練を受ける社員の側に余裕がない分、実効性が薄れかねない危険性も孕んでいます。

このため、より実戦に近い方が良いからという理由だけで、安易に繁忙期に訓練を実施することは好ましくないということになります。


🛠️ クレームを最小化し、繁忙期でも効果的に訓練を行う工夫

  1. 訓練の目的を事前にしっかり周知
    • 「なぜ今やるのか」を理解してもらうことで、反発を抑制
       
  2. 訓練後のフォローを充実
    • 「引っかかった=失敗」ではなく「気づくきっかけを得た」と位置づける
       
  3. タイミングの配慮を微調整
    • 繁忙期でも“山場”を避け、比較的落ち着いた時間帯に送信
       
  4. 一部部門のみ先行実施する“段階訓練”
    • 一斉実施が難しい場合は、部署やチーム単位で時期を分散

攻撃者は組織の弱いところを突いてくるのが常なので、繁忙期であっても被害に遭わないためには、繁忙期でも訓練を実施し、いつ何時でも油断をしない心構えを醸成することが望ましいですが、現場の理解も得ずに無理に実施すれば、反発する方が出てしまうことは否めません。

攻撃メールに強い組織を作りたいので、あえて繁忙期に訓練を実施したいと考える担当者の方も多いかとは思いますが、繁忙期の訓練実施にチャレンジするのであれば、まずは現場にその想いを伝え、現場の理解も得ながら、実際に訓練を実施した際に発生しうるリスクへの備えなども含め、訓練実施に向けた足場固めをしっかり行うことが、準備として必要であると考えます。

しかし、そうはいっても、ボトムアップではなかなか受け入れてもらえないことのほうが多いので、現実的な進め方としては、部長クラスから役員等に話をしてもらい、トップダウンで進めるのが妥当ということになるかと思います。


💡 まとめ:クレームに耳を傾けつつ、リスクは現実として直視すべき

繁忙期に訓練を実施することは、一見すると“業務の妨げ”かもしれません。
しかし、攻撃者は社員の隙を突いてくるという現実を踏まえると、**「繁忙期だからこそ訓練が必要」**という考えもまた、正しいと考えます。

”セキュリティ”を錦の御旗として一方的に訓練を実施するのではなく、社員との信頼関係を築きながら、効果的なタイミングを見極め、現実に即した訓練設計を心がける。これが、訓練実施担当者に求められることなのだと思います。

投稿者アバター
キットマスター 標的型攻撃メール対応訓練実施キット開発者
プログラマ、システムエンジニアであり、情報セキュリティの分野では現役の標的型攻撃メール訓練実施担当として10年以上にわたり、毎月どこかしらで標的型攻撃メール訓練を実施している、訓練実施のエキスパート。