
🎯 訓練さえすれば安心?
標的型攻撃メール訓練は、社員が実際の攻撃に近いメールを体験することで、
「不審なメールに気付ける社員」を育てる施策です。
しかし、**「訓練さえすれば社員は不審なメールを開かなくなる」**と考えるのは危険です。
実際には、訓練だけで得られる効果は限定的です。その理由を整理すると――
- 社員の関心不足:多くの社員はセキュリティに強い関心を持っているわけではありません。
- メールの“無視”:訓練メールを開封せず削除する社員も一定数存在します。
- 学びの定着不足:業務が多忙で、注意喚起が「流し見」で終わることも少なくありません。
- 振り返り不足:クリック率の数字の良し悪しだけで終わってしまい、行動改善に繋がらない。
- 経営の本気度不足:経営層が形式的に「やっておけ」と指示するだけでは、社員に危機感が伝わらない。
こうした要因から、たいていの場合、訓練だけ実施しても、それだけでは「セキュリティ文化の醸成」にはつながらないという結果に終わります。
🛡 訓練と組み合わせるべき具体的施策
訓練単独でも、やらないよりはやったほうが明らかに効果はあるので、やったことがない企業であれば、是非実施されることをお奨めしますが、それだけで社員が不審なメールを開かなくなるかというと、そうでは無いことは前述に記載の通りです。
そうなると、1度は訓練を実施しても、継続して訓練を実施することには疑問符をつける方も出てくるかもしれませんが、ここで知っておくべきは、訓練を単発のイベントではなく、継続的な施策群の一部として捉えることです。
あらゆるスポーツがたった1種類の練習だけで上達できるわけではないように、不審なメールに対する社員のリテラシー向上も、標的型攻撃メール訓練を実施するだけで得られるものではありません。
訓練の実施だけをもって効果がある・ないを図ろうとすること自体が間違いであり、スポーツの上達プロセスと同様に、訓練を実施する以外にも、次のような取り組みをセットで実施することが推奨されます。
1.結果のフィードバックと再学習
👉 例:訓練後に5分程度の動画解説を全社員に配信し、翌週の朝礼で再確認。
2.形を変えた学習の実施
👉 例:理解度確認テストや社内資格試験などを実施。
3.継続的な啓発
👉 例:社内ポータルに「今週の不審メール事例」を掲示。
4.通報・共有の仕組み
👉 例:報告件数に応じて部門評価に反映。
5.経営層のコミットメント
👉 例:役員会で訓練結果を議題化し、改善計画を策定・公表。
6.実際の被害事例との紐づけ
👉 例:同業他社の事例を紹介し、経営へのインパクトを数値で示す。
この中でも特に重要視すべきは、「経営層のコミットメント」です。
経営層が訓練に関心が無かったり、形だけやっておけばいいといった姿勢を社員に見せていたら、社員の側も経営層に倣って無関心になります。
経営層にやる気が無いのに、なんで社員が真面目に取り組まないといけないのか?と考えるのは必然です。経営層自らが取り組みに積極的である姿勢を見せ、取り組まないこと自体が「居心地が悪い」と社員が感じる雰囲気を作ることが最も大事なポイントです。
これがない会社は、どのような施策を実施しようとも、得られる効果は全く無いか、あっても限定的なものとなってしまいます。
💹 ROI(投資対効果)の視点
とはいえ、経営層も経営にとってそれが大事なことであると思えなければ、取り組みにはどうしても消極的にならざるを得ません。経営判断に欠かせないのが「投資対効果(ROI)」の視点であり、ROIが低ければ関心を示してもらえないというのも当然ではあります。
訓練単独のROIは低い
- 年1回の訓練のみでは、記憶がすぐに風化し、効果は短命。
- 社員の行動が変わらなければ、実際のリスク低減につながらず、訓練コストが無駄になりやすい。
上述の通り、訓練単独で得られる効果は限定的であり、そのような訓練を継続して実施したところで無駄な投資となってしまいかねないことから、「経営層のコミットメント」を求めても関心を示してもらえないというのは十分にありえることです。
そこで大事になってくるのが、セット施策でROIを高めるという考え方です。
ROIを高めるセット施策
- フィードバックや定期啓発を組み合わせることで、訓練投資が「一時的な出費」から「継続的なリスク低減」へ変わる。
- 報告文化を育てれば、実際の攻撃発生時に早期対応が可能となり、被害額を数千万〜数億円単位で抑制できる。
- 経営層がコミットすることで、社員が「これは本気の経営施策」と認識し、投資額以上の防御効果が期待できる。
数字で見るROIの違い(例示)
- 訓練単発:年間100万円投資 → 効果持続は数週間
- セット施策導入:年間150万円投資 → 被害回避で数千万円規模の損失抑止が可能
👉 経営層にとって重要なのは、「いくらかけるか」ではなく「どれだけの損害を防げるか」 という視点です。
標的型攻撃メール訓練を実施した結果だけでROIを考えるのではなく、その他の施策と併せて、どれだけの損失を防ぐ基盤を社内に確立できたかを基にROIを考えることが、経営層にとってもわかりやすく、関心を示してもらいやすいと言えるのではないでしょうか。
💡 効果を得るため注視すべきポイント
標的型攻撃メール訓練は「やらないよりは良い」施策ですが、単発の訓練だけでは効果は限定的です。
訓練をより一層の効果を得られる施策とするために注視すべきポイントは次の通りです。
- 訓練は継続的施策の一部に位置づける
- 結果を“行動変容”に結びつける仕掛けを用意する
- 経営層自らが関与し、文化醸成をリードする
- ROIの観点から「投資以上の損害抑止」を実現する
サイバー攻撃は今後も確実に巧妙化します。
訓練を単独の施策として捉えるのでは無く、他の施策と併せてどれだけの損失を防ぐことができる基盤を社内に作れるか、訓練はそのための施策の一つとして考え、実行するのがあるべき姿と考えます。