🔸「ゼロクリックにならないなら、訓練しても意味がない」?

「訓練をしてもクリック率はゼロにならない。それなら訓練をしてもしなくても同じでは?」

――こうした声は、実はとてもよく聞かれます。訓練を実施するにもコストがかかるため、経営者はコストをかけるだけの必要性があるのかどうかを気にするものです。

それゆえ、やってもやらなくても同じなら、コストをかけるのは無駄だろうと考えるのは当然です。

確かに、どれだけ入念に標的型攻撃メール訓練を実施しても、クリック率を完全にゼロにするのはほぼ不可能です。でも、それは訓練の「限界」ではなく訓練が持つ「本当の目的」を見誤っているからこその発言だと言えます。

この記事では、標的型攻撃メール訓練はクリック率をゼロにする、もしくは、限りなくゼロに近づけるために実施するものだと考えている経営者に伝えるべき視点について解説します。


✅ 標的型攻撃メール訓練の目的は「ゼロクリック」ではない

標的型攻撃メール訓練の目的は、一人残らず騙されない状態を作ることではありません。

むしろ重要なのは、

「誰かが間違ってクリックしても、それが重大な事故につながらないようにする」
という【備え】を組織として持つことです。

サイバー攻撃の世界では、100点の守りを目指すのではなく、リスクを“最小限”に抑える行動が鍵を握っています。


✨ 訓練を通じて得られる、3つの重要な「気づき」

① クリックしてしまった人を「気づける人」に変える

人は「やってしまった経験」からこそ強く学べます。
訓練を通じてクリックしてしまった人も、
「なぜ騙されたのか」「次はどうすれば気づけるか」
という視点を持つことで、現実の攻撃メールへの注意力が高まります。

② 「報告する文化」を根づかせる

本物の攻撃メールをクリックしてしまっても、
即座に報告・共有されれば、被害拡大は防げます。

訓練は、報告の重要性と安心して報告できる雰囲気を醸成することに役立つ有効な機会です。
つまり、ミスを責めるのではなく、早期報告を称賛する文化づくりが訓練の本質のひとつなのです。

③ 組織の弱点を見える化できる

訓練結果を分析することで、

  • どの部署がどのような攻撃に弱いのか
  • どのようなタイミングで攻撃に反応してしまうのか

など、潜在的なセキュリティリスクの傾向が可視化されます。
これにより、本当に対策が必要な部分に集中して教育を施すことができるようになります。


📉 数字だけに縛られてはいけない ― 成果は「行動変容」で見る

たとえば…

  • 訓練後に「これ怪しくない?」という声が社内で出るようになった
  • チーム内でフィッシングの話題が自然に交わされるようになった
  • 怪しいと感じたメールをすぐに報告する社員が増えた

こうした変化は、すべて訓練によって生まれた**「対応力の強化」**の証です。

数字では測れない“現場の空気の変化”こそが、訓練の最大の成果です。
クリック率が下がるのは、このような行動変容が起きてきた結果です。

セキュリティについて社員が全く意識していない会社と、行動変容によって、社員の誰もがセキュリティについて意識するようになった会社では、どちらが被害の発生確率が高く、危険だと思えるかは明らかでしょう。

セキュリティ侵害によって発生しうる損失の額を考えれば、これだけでもコストをかける価値は十分あると判断できるはずです。


🤔なにも訓練なんかしなくても、セキュリティ研修でいいんじゃないの?

「行動変容」させることが狙いなら、わざわざ訓練なんかしなくても、eラーニングとかで注意喚起すればいいんじゃないか?という反論もあるかもしれません。

セキュリティの基本を学ぶという点では、座学は非常に有効です。
しかし、人間は「知っていても、できない」もの。
座学で行動変容ができるなら、スポーツ選手は朝から晩まで練習をする必要などありません。

知っていてもできないからこそ、実践で練習する必要がある。

標的型攻撃メール訓練は「行動変容」を起こさせるきっかけとなるものであり、実践できるようにする練習の場、また、実践を通じて気づきを得る場でもあるのです。


🧩 まとめ:完璧を求めるのではなく、最悪を防ぐ力を育てる

標的型攻撃メール訓練とは、
❌ 「標的型攻撃メールによる被害を防ぐため」ではなく、
✅ 「被害が発生することがあったとしても、致命傷にしないため」の準備です。

標的型攻撃メール訓練は、
「ゼロクリック」を目指すためではなく、
「たとえ誰かが失敗しても、組織全体で守れる体制を作る」ためのものです。

そしてそれは、「頭でわかっている」ということではなく、
実際にできる」というレベルで組織に浸透させることです。

「訓練なんてしなくても大丈夫」という人ほど、一度は訓練を受けてみるべきです。
そして、「やってみて初めて、自分の弱点に気づく」ことが大切であり、それができるのは「標的型攻撃メール訓練」という実践の場だということです。

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キットマスター 標的型攻撃メール対応訓練実施キット開発者
プログラマ、システムエンジニアであり、情報セキュリティの分野では現役の標的型攻撃メール訓練実施担当として10年以上にわたり、毎月どこかしらで標的型攻撃メール訓練を実施している、訓練実施のエキスパート。