😖教材を整備したのに、社員がなかなか学習してくれない……

これ、多くの企業担当者が感じている悩みかと思います。その原因は、多くの場合、社員が学習の必要性を肌で感じていないことにあります。

ライフハックのように、すぐに役立てることができるようなものならともかく、今すぐに必要だと実感できないことに前向きに取り組める人は、そう多くはありません。

教材受講の有無を人事評価に取り入れるなどして、強制的に学習させる方法もありますが、そんなことをしたところで、(形だけ)やりましたよという人が続出し、当の教育効果といえば”さっぱり“という結果になるのは目に見えています。

ここでは心理学の視点を取り入れ、社員が学習の必要性を強く認識し、自ら積極的に取り組むようになるきっかけ作りのポイントについて考察してみたいと思います。


✅①「必要性」は経験から生まれる

人は漠然としたリスクより、具体的で切迫したリスクに対してより積極的に行動することが分かっています。

たとえば、情報セキュリティ教育において、単に知識を伝えるだけでなく、フィッシング詐欺を模した訓練メールで「実際に騙される」経験を提供することで、自ら学習の必要性を感じ、積極的な学習行動に繋がります。

実際、訓練で騙されてしまった人は、そのインパクトが強く記憶に残ります。この記憶があることで、普段からフィッシング詐欺メールを意識するようになります。

【事例】
ある企業は、定期的に訓練メールを送付してセキュリティ事故のシミュレーションを実施。最初は社員の反応が薄かったものの、自分自身が騙されたり同僚が被害を受ける姿を見て「次は自分も気を付けなければ」と意識が変わる社員も出てくるようになりました。


✅②社会的証明の活用

人は周囲の行動を見て自分の行動を決める「社会的証明」の影響を強く受けます。

社内で積極的に学習を行い成果を上げた社員を紹介したり、社内報や掲示板で模範社員の取り組みを共有することで、自分も認めてもらいたいと思う人が増え、取り組む人が増えることによって、「みんなもやっているなら自分もやらなければ」という意識が醸成されます。

ここでのポイントは、賞賛されることのハードルを”低く過ぎず、高すぎず“に設定することです。ちょっと頑張れば褒めてもらえる、そして、賞賛される人が増えていくペースを上手にコントロールすることで、”(褒めてもらえそうだから)今やろう”、”(自分だけ取り残されそうだから)今やらないと”と思わせるというわけです。

【事例】
ある企業では、毎月、セキュリティ学習や資格取得に積極的な社員を「セキュリティリーダー」として社内報に掲載しました。すると掲載をきっかけに、他の社員も学習を始める動きが広まり、学習コンテンツの利用率が劇的に向上しました。

積極的に学習に取り組まない方がむしろ”おかしい“という雰囲気を如何に作れるかがポイントです。


✅③報酬よりも「損失の回避」を意識させる

心理学において、人間は「得をすること」よりも「損をしたくない」という気持ちのほうが強く働くことが知られています(損失回避の法則)。

この心理を応用し、「学習しないことによる具体的なリスク」を明示することで社員の学習意欲を喚起できます。

【事例】
ある企業では、定期的なセキュリティテストを導入し、合格基準を下回った社員には一時的にアクセス制限を設けました。この制度により、社員は「損を回避するために」自主的に学習に取り組み始めました。結果、テストの合格率が大幅に改善されました。

とにかく受講さえすればOKというような、ごまかしがきくようなものではなく、真剣に取り組まないと自分に実害が発生してしまうというのがポイントです。


✅④小さな成功体験を積ませる~自己効力感を高める~

心理学でいう自己効力感とは、「自分にもできる」という自信のこと。この感覚が高まると、継続的な行動につながります。

まずは簡単な内容の学習を提供し、「できた!」という達成感を与えることから始めることが大切です。

【事例】
ITスキルが低い層が多い企業で、初級者向けの簡単なセキュリティクイズから始め、毎回小さな成功を体験させることを重視したところ、社員が次第に自主的に難しい内容にもチャレンジするようになりました。

難しいクイズだと「自分には関係ない」と思われてしまいますが、自分にも答えがわかりそうなクイズだと、つい、答え合わせをしたくなってしまうという心理を上手く突くことがポイントです。


🎯心理学的な視点で「学びの動機付け」を

社員が学習に積極的に取り組むためには、心理学の知見を取り入れ、以下のような仕掛けを積極的に導入することが有効です。

  • 切迫感を体験させるシミュレーション訓練
  • 社内での模範行動の紹介(社会的証明)
  • 損失を明確化した制度設計
  • 小さな成功体験を積ませる仕組み作り

これらを適切に活用することで、社員自らが「学ぶ必要性」を強く認識し、自発的かつ継続的に学習に取り組む企業文化が生まれます。

これからの経営はセキュリティが大事」「会社を守るためにセキュリティ意識を高めましょう」と言ったところで、本人に動機がなく、必要性にも迫られていなければ、積極的に取り組もうとすることはないし、それを強制させようとしても上手くいくことはないでしょう。

ぜひ心理学を活用し、本人の中に「学ぶ必要性」が生まれる仕掛け作りを進めてみてください。
人によってきっかけは様々なので、仕掛けは一つではなく、色々な仕掛けを取り入れていくことがポイントです。

投稿者アバター
キットマスター 標的型攻撃メール対応訓練実施キット開発者
プログラマ、システムエンジニアであり、情報セキュリティの分野では現役の標的型攻撃メール訓練実施担当として10年以上にわたり、毎月どこかしらで標的型攻撃メール訓練を実施している、訓練実施のエキスパート。