2025年2月~4月にかけ、証券会社のオンライン口座アカウントの乗っ取り被害が大量に発生し、被害総額3,000億円以上という深刻なサイバー犯罪が発生しました。

この事件は、フィッシング詐欺メールに騙されてしまったことが原因でもあったと思いますが、
むしろ、注目すべきはその裏にあった、システム設計上の欠陥――
そしてその欠陥に

  • 社内で誰も気づいていなかった
  • 気づいていた人がいてもその声が社内には届かなかった
  • 気づいていても、たいしたことにはならないだろうと考えてしまっていた

という構造的な問題があったのではないか?と懸念です。


🧨 フィッシング被害“だけ”ではなかった

この件については「顧客がフィッシング詐欺に騙された」ことが原因と思われがちですが、
実際には、次のような“仕組み”の不備が被害拡大の一因となったことが報じられています。

  • 利便性を優先した結果としてのセキュリティの弱さ
  • 顧客が取引を「知らない」と訴えても、即時凍結されない口座運用
  • 不審な取引を感知する内部モニタリング体制の甘さ

つまり、「ユーザーの不注意」だけを責めて済む話ではなかったということです。

【参考情報】
オンライン証券口座乗っ取り急増-日本の弱点露呈、官民の対策急務(Bloomberg)
本人確認が甘かった…証券「口座乗っ取り」10社が補償拒否から一変、セキュリティとのバランスを見誤った業界の落ち度(東洋経済オンライン)


⚠️ 社員の“気づき”が黙殺される会社の末路

セキュリティリスクに「気づく社員」は、必ずどの組織にも存在します。
問題は、その声が届かないこと。

  • 「余計なことを言うな」と扱われて黙るしかなくなる
  • 「気のせいだろう」で放置される
  • 誰に報告すればいいのか分からない
  • 報告した相手が事の重大性に気づかず後回しにされる

このような環境が続けば、いずれ会社は重大インシデントを招きます。

実際、2019年にセブンイレブンがリリースした「7pay(セブンペイ)」というQRコード決済システムではリリース直後に不正アクセス被害が発生し、サービス自体が廃止に追い込まれる事態となりました。

【参考情報】
セブンペイの不正アクセスはなぜ起きたのか(東洋経済オンライン)
セブン&アイの7payはなぜサービス終了に至ったか、「失敗学」の方法で分析した(日経クロステック)

セブンペイではリリース直後から不正アクセスが発生したくらいですから、リリースするまで誰も欠陥に気づいていなかったということはないはずです。

このような事例を通して述べたいことは、”気づいた人”を無視する、また、ぞんざいに扱ってしまう文化こそ、組織にとって最大のセキュリティリスクだということです。


🔑 セキュリティ教育担当者がすべき、3つの打ち手

セキュリティ教育の役割は、単なる知識の伝達ではありません。
「気づき」「報告」「改善提案」が当たり前になる文化づくりこそが、教育の本質です。

攻撃者は”まさか!”と思うような手口を使って攻撃を仕掛けてきます。
”こんな手があったのか!”と思わされるようなこともしばしばです。
だからこそ、気づいた人がいたら、その情報がいち早く共有されることが重要です。

以下は、教育担当者が実践すべき打ち手です。


✅ ① 「声を上げやすい」文化をつくる仕掛け

  • 社内に“気づきホットライン”を設ける
    • 匿名でも報告できるフォームやチャットを整備
  • 「報告した社員を褒める」社内掲示板
    • 小さな気づきにも称賛を与える文化が報告の活性化に繋がる

✅ ② 現場社員を“セキュリティ観察者”に育てる

  • 日常業務の中で「おかしい」と思った瞬間を共有する
  • 観察力を鍛えるミニワークショップを定期開催
  • 実際の事故例を題材に、どこで気づけたかを考える訓練

✅ ③ 「システムを疑う力」を育てる教育

  • 「この仕組み、悪用されたらどうなる?」という視点を持たせる
  • 形式的な操作マニュアルではなく、**“思考させる設問”**を研修に盛り込む
  • 社内システムへの「不満・違和感」も立派なリスク情報として拾い上げる姿勢を伝える

🌱 気づいた人が“ヒーロー”になる職場へ

社員一人ひとりの「おかしいな」「気になるな」が、
未来のインシデントを防ぐ最大のブレーキになります。

でも、そのブレーキが働かない組織は、
ブレーキのない車で高速道路を走るようなもの。

セキュリティ教育担当者は、社員の「感度」と「行動」を高めるドライバーサポート役です。


📌 あなたの会社は「気づきを無視する組織」になっていないか?

  • 被害の裏には“仕組み”の甘さと、“声を拾わない”体質がある
  • セキュリティ教育担当者は、社員の“気づく力”を育てるだけでなく、“声を活かす仕組み”もつくる必要がある
  • 「報告ができる」「報告しても評価される」文化が、企業の未来を守る

🔐 セキュリティは、みんなで守るもの。
その第一歩は、「社員の声に耳を傾ける組織づくり」から始まります。

投稿者アバター
キットマスター 標的型攻撃メール対応訓練実施キット開発者
プログラマ、システムエンジニアであり、情報セキュリティの分野では現役の標的型攻撃メール訓練実施担当として10年以上にわたり、毎月どこかしらで標的型攻撃メール訓練を実施している、訓練実施のエキスパート。