💬訓練さえやれば全員が見破れるはず―の誤解

詐欺メールは「訓練」で見破れる!とはよく言われますが、
現実は、何度訓練を繰り返してもクリック率ゼロには到達せず、見破れない人を無くすことはできません。

しかし悲観する必要はありません。
「なぜゼロにならないのか」を正しく理解し、減らし続ける仕組み をつくれば、
実害リスクは劇的に下げられます


🔍 「訓練すれば100%防げる」という話をまず疑え

  • 世界平均の詐欺メール クリック率は 3〜12%(業種・地域で変動)
  • メール 1 通の誤クリックが数千万円の損害を招く事例も
  • 騙しの手口は常に変化し、新しいものが次から次に登場する
  • どれだけ教育投資をしても “人的要因”での被害発生が0になることはない
    • 火災訓練でも“避難の遅れ”がゼロにならないのと同じ

🎯 ここが重要
完全防御を目指すより、 「誤クリックを最小化し、被害を局所化する」
という設計思想に切り替えることが重要。


🧠 人は完璧に学習できない3つの理由

ボトルネック具体例
注意資源の限界
(Cognitive Load)
繁忙期・マルチタスクで視野が狭くなり、「急げ」の文言に反射的にクリック
状況依存記憶
(Context-Dependent Learning)
会議室で学んだ知識が、帰宅後に思い出せず、再度会議室に入った途端、思い出す
個人差
(Risk Perception / 性格特性)
極端な楽観主義・過信傾向の人は**「自分は大丈夫」**と判断を省略

📝 意思だけではどうにもならないこともある
疲労空腹のときは注意力が 20〜30%低下する研究もあります。また、加齢により認知能力が低下することは周知の事実です。「人間は常にベストパフォーマンスではない」 ので、本人の意思だけではどうにもならないこともあることを前提に、フィッシング詐欺メール対策を設計する必要があります。

まさに”ゼロトラスト“の考え方です。


⚖️ 見分けられる人/見分けられない人の分岐点

✅ 見分けられる人が持つ5つの無意識習慣

  1. クリック前に 1 拍置く
  2. URL を声に出して読む/指でなぞる
  3. 「嫌な予感」を言語化し周囲にシェアする
  4. 詐欺メールであることを前提にメールを読む
  5. 攻撃者の立場になって罠を仕掛けやすい箇所を見る

❌ 見分けられない人に共通する落とし穴

  • **“とりあえず開封”**が体に染みついている
  • セルフチェックリストを頭では知っているが動作と結びついていない
  • 成功体験が少なく、自信がない → 焦って判断 → 失敗という負のループ
  • 攻撃者の視点を持っていない
  • 届いたメールがもし詐欺メールだったら?と考えない

🚀 見分けられない人を減らす5つの施策例

施策概要期待効果
① マイクロラーニング×高頻度週1本・60秒動画+即席クイズ再生産間隔効果で定着率UP↑
② 気づきトリガーの習慣化“クリック前に URL を読む”ルールをポスター・ステッカー化無意識化しやすい
③ 訓練シナリオの多様化メール・SMS・Teams DM・生成AI チャット誘導などをローテパターン慣れを防ぐ
④ ソーシャルプルーフ活用月間トップ報告賞🏆を社内表彰、成功体験を社内 SNS で共有行動モデルを可視化
⑤ テクノロジーとペアリング報告ボタン → 即時フィードバック&バッジ付与行動強化検知速度UP

💡 ワンポイント
“教育”だけでなく行動を促す仕掛け」と「即時の成功体験」を組み合わせ、見分けることが「楽しい」「嬉しい」、見分けることで「賞賛される」「承認欲求が満たされる」といった、「見分けたくなる仕掛け」があると、行動変容の速度が一気に高まります。


📈 成果を最大化する実践ロードマップ例

  1. Kick-off (1か月目)
    • 現状診断:クリック率/報告率
    • 経営層ブリーフィングで “0%神話”の誤解 を解消
       
  2. Pilot (2〜8か月目)
    • 対象を絞って、見分けられない人を減らす施策を小規模で実施
    • “失敗しても責めない”コミュニケーション設計
       
  3. Scale (8〜12か月目)
    • Pilotの結果を基に、成功パターンを全社展開
    • KPI:クリック率 ▲50% /報告率 +30% 目標
       
  4. Optimize (12か月目〜)
    • 四半期ごとにシナリオ刷新行動指標レビュー
    • 成熟度モデル(レベル0〜5)でポジション確認 → ギャップ施策投入

経営層に訓練を実施してもクリック率は0%にはならないこと、また、クリック率を0%にすることが訓練実施の目的ではないことを理解してもらうことは必須です。

そうでないと、「いつまで訓練実施にコストをかけるんだ?」とか、クリック率や報告率が下げ止まってきたら「もうやらなくていいんじゃないか?」といった話が出てきてしまい、途中で止めてしまうことで、積み上げてきたものが元の木阿弥になってしまうことになりかねません。

家に人が住まなくなったら家が朽ちてしまうのと同様に、訓練を止めてしまうと、訓練を通じて培った社内の文化も時間の経過と共に失われてしまいます。


💬 まとめ ―― “0%”への固執を捨て、減らし続ける文化を

  • 人はミスをする生き物。だからこそ訓練+仕組み+文化でカバーする
  • 重要なのは「クリック率を下げ続けるプロセス」を回し続けること」
  • 次の一歩:まずは現状診断パイロット施策から始めよう!

詐欺メールは「訓練」で見破れる!というのは、ある意味事実ですが、訓練を行うだけでは見破れるようにはなりません。

だったら、訓練なんてやったって無駄じゃないか。という声も聞こえてきますが、そうではありません。詐欺メールに騙されないためには、詐欺メールによって私たちを騙そうとする手口があることを知り、そうした手口に騙されないための仕組みを会社として構築することが必要です。

その仕組みが文化として社内に定着し、詐欺メールから会社を守る防護壁として機能するようにするためには、やはり訓練を行い、社員一人一人が仕組みをきちんと機能させることが必要です。

訓練を実施することでクリック率を0%にしようとするのではなく、訓練を実施することで仕組みが常に機能することを維持し、詐欺メールから会社を守ることができていると誰もが実感できることを、会社の文化としてあたりまえのものにしていくことこそ、訓練の本当の在り方だと考えます。

標的型攻撃メール訓練は、単に詐欺メールを見破る練習をするためだけにあるものではないということに気づけると、今実施している訓練のやり方や考え方も大きく変わってくるはずです。

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キットマスター 標的型攻撃メール対応訓練実施キット開発者
プログラマ、システムエンジニアであり、情報セキュリティの分野では現役の標的型攻撃メール訓練実施担当として10年以上にわたり、毎月どこかしらで標的型攻撃メール訓練を実施している、訓練実施のエキスパート。