
✅「セキュリティ対策より保険」の落とし穴
「サイバー攻撃で被害を受けても、保険に入っていれば大丈夫」
…そんな声を経営者の方から耳にすることがあります。確かに、サイバー保険は万が一の備えとして心強い存在です。しかし、それがセキュリティ対策を行わない言い訳になってしまっては、本末転倒です。
🕒 保険金が出るまで“平均6か月以上”かかることも
実際にサイバー攻撃を受けてしまった企業の事例では、保険会社による調査や損害の精査、第三者のフォレンジック調査などに長い時間がかかることが珍しくありません。
🔍 ある中堅企業では、ランサムウェア攻撃により業務が3日間停止。復旧には2,000万円を要しましたが、保険金の支払いまでに7か月を要しました。
その間、キャッシュフローは逼迫。顧客の信頼も損なわれ、業績が大きく落ち込んだのです。
❓保険金の支払いに時間がかかるのは何故か?
保険は実際に発生した損害を補填するものです。なので、実際に発生した損害は何で、それが具体的に幾らの損害だったのかを証明する証拠が必要になります。
自動車保険なら事故が起きた車両を確認することで具体的な損害内容を特定できるので、事故が起きた後は保険会社に任せておけば良い。とすることができますが、サイバー攻撃による損害はそうはいきません。
自動車事故でも保険金詐欺があるように、サイバー保険でも保険金詐欺はあり得ます。
損害内容が目に見える自動車事故と違って、サイバー攻撃による損害は目に見えません。
保険会社は自作自演の被害申告によって保険金をだまし取られることを防がないといけませんから、発生した損害が事実であり、金額も含めて正しいものであることを確かめようとします。
なので、被害を受けた金額が保険金として保険会社から支払われるのは、その金額を自社で支払った後に、その証拠を保険会社に提示し、保険会社側でその内容が損害額として認められた後になる。ということです。
実際、某企業では、損害の証拠となるデータを保険会社に提示し、保険会社側で精査するというやり取りに膨大な時間がかかり、被害が発生してから実に数年も経って、ようやく保険金が支払われることが決定したという事実があります。
損害賠償などを巡って裁判などになれば、当然、その分の時間もかかることになります。
🔍保険金が支払われるまでの体力が貴社にあるか?
資金に余裕がある大手企業ならともかく、資金繰りに余裕がない中小企業では、保険金が支払われるまでの間に発生する支払いに耐えきれないかもしれません。
また、保険会社に対して正確な証拠を提示するためには、その証拠を揃える人材も必要になります。
人手不足が叫ばれる中、自社の業務を実施しながら、保険会社に提出するためのデータを作成し、保険会社とやり取りするだけの時間を割くことができる人材が自社にいるでしょうか?
保険会社も商売なので、おおざっぱな証拠だけで保険金を支払ってくれるということはありません。
この労力が割けない、また、正確な証拠が提示できないということから、保険金の申請を諦めざるを得ないということもありえるのです。
💸 すべての損害が保険でカバーされるとは限らない
さらに注意が必要なのは、保険の補償範囲です。
例えば次のような費用や損害は、保険ではカバーされないケースがあります。
サイバー保険を契約しておきさえすれば、何でも保険でカバーされるわけではありません。
- 失った顧客との信頼関係
- 自社ブランドの毀損
- 規定外のIT資産に対する損害
- 保険契約の免責額を下回る損害
つまり、保険で金銭的な穴埋めはできても、信用の穴埋めはできません。
🛡 保険は“最後の砦”、日頃の防御こそ最重要
サイバー保険は、あくまで最後の備えです。
それよりもまず重要なのは、
- 社員に対する標的型攻撃メール訓練
- システムの脆弱性管理
- 多要素認証の導入など、
日常的なセキュリティ対策を講じておくことです。
いざという時の損害は保険で戻ってくるのなら、セキュリティ対策に費用をかける必要なんて無いと考えるのは、中小企業にとっては非常に危険な考え方だということは、前述までの内容でご理解いただけるかと思います。
🚨 経営にとって“備え”とは何か
保険は「守りの道具」のひとつに過ぎません。
企業経営にとって本当に大切なのは、攻撃を受けないための努力を怠らないことです。
経営資源を「セキュリティ対策」ではなく「保険料」だけに投じていると、いざという時に「対応の遅れが命取り」になることを、ぜひ知っておいてください。
経営者は、”サイバー保険を契約しておけば安心”などと努々考えないことです。