
❖ はじめに:“受講した”だけで、本当に身についていますか?
「全社員にeラーニングを受講させました」
「クイズ形式で満点を取っていました」
「研修動画もちゃんと視聴済みです」
情報セキュリティ教育として、このような報告が上がってくることは少なくありません。
しかしその社員は本当に、「実際のフィッシング攻撃」に気づけるでしょうか?
“知っているつもり”が、一番危ない。
そう気づいている担当者も増えています。
❖ セルフトレーニングだけでは防げない──3つの限界
🔻 1. 「知っている」と「できる」は違う
- eラーニングで知識を得ても、実践で使えなければ意味がありません。
- 急ぎの業務中に届いたメールを見て、冷静に判断できるかどうかが勝負。
- 頭では理解していても、条件反射でクリックしてしまう人が多いのが実情です。
🔻 2. 記憶に残らない、リアリティの欠如
- 一方的な動画視聴やテキスト学習では、「自分ごと」としての危機感が芽生えにくい。
- 「実際に騙されてしまった」「しまったと感じた」経験が、最も記憶に残ります。
- 体験を通じた学習こそが、“行動”を変えます。
🔻 3. 「受講済み」のチェックでは、本当の理解度が見えない
- eラーニングでは、受講したかどうかしか把握できない。
- でも、全員が等しく理解できているとは限りません。
- セキュリティ意識には、部門や個人の間で大きな差があります。
よくあるケースとして、理解度確認テストで満点を取るまで研修を終えられない設定にしているところもあるかと思います。受講者全員が理解度テストで満点を取得する結果を残せているので、傍目には社員全員が研修の内容をきちんと理解できているかのように見えます。
しかし、満点を取らないと研修を終えられないという設定にしている場合、問題が難しすぎて研修を終えられないのはマズイということで、大抵は誰でも繰り返しテストを受ければ必ず満点を取れるようになっていたりするので、実際には理解していなくても、最終的には答えがわかって満点を取れてしまうというのが実際です。
満点を取るまで研修を終えられないというのは、”やりました感”を演出するにはもってこいですが、実効性があるか?というと果たしてどうでしょうか?
筆者自身もセキュリティ教育の現場に関わっていますので、自分自身にも言えることですが、研修実施担当者は今の研修が”自己満足”で終わってしまっていないか、”やりましたというポーズ“を示すだけで終わってしまっていないか、常に振り返って考えるようにしないといけないなと思います。
❖ 担当者が取るべき「実効性ある教育」とは?
✅ 1. 擬似体験による“行動の可視化”を
- 標的型攻撃メール訓練は、実際に社員の行動を観察できる貴重なツールです。
- 誰がリンクをクリックしたか、誰が疑問を持って報告できたか。
- 教育の“結果”を見える形で確認できます。
✅ 2. 振り返りとフィードバックを必ずセットで
- 訓練だけで終わらせず、「なぜそれが危険なのか」「どう判断すべきだったか」を丁寧にフィードバック。
- “知識”から“納得”へ落とし込む仕組みが大切です。
✅ 3. 教育→訓練→振り返りのサイクルを定着させる
- 年1回のeラーニングでは忘れてしまいます。
- 定期的に“小さな気づき”を与えるサイクルを回すことで、社員の意識は定着します。
❖ セキュリティ教育は、“知識提供”から“行動変容”へ
「eラーニングを受けているから大丈夫」
「知識はあるはずだ」
そんな安心感が、最大の落とし穴です。
セキュリティ事故は、“教育済みの社員”からも起きている。
だからこそ、今一度問い直すべきです。
本当に「行動が変わる教育」になっているか?
🟢 まとめ:eラーニングは“入口”にすぎない
セルフトレーニングは重要です。
しかし、それは情報セキュリティ対策の第一歩に過ぎません。
AIと自動化の活用により、社員個人のレベルに合わせて自動でトレーニングを進めることができるような社員教育システムも登場し、担当者の負担を減らしてくれる便利な仕組みもありますが、そうした仕組みを導入して満足してしまうのは早計です。
そういった便利な仕組みもやはり入り口の一つに過ぎません。
本当に企業を守るためには、「気づける社員」「避けられる社員」を育てる仕組みに加え、その仕組みによる効果として、「気づける社員」「避けられる社員」が確かに育ったと実感できる検証の仕組みも必要不可欠です。
その仕組みづくりを、教育担当者である“あなた”がリードしてください。